日本市場向けユーザーリサーチ:プロダクトデザインの質を高めるためのインサイトとは

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Trang Nguyen
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優れたプロダクトデザインの基盤には、常にユーザーリサーチがあります。しかし、日本のように独自の文化や価値観が根付いた市場においては、他国で通用した仮説や方法論がそのまま通用するとは限りません。日本のデジタル習慣、文化的期待、カスタマーサービス基準を理解するには、より深いリサーチと洞察が不可欠です。

この記事では、日本市場におけるユーザーリサーチ特有の課題とベストプラクティス、そしてローカルインサイトがより優れたプロダクトデザインにどのようにつながるかをご紹介します。

日本市場に合わせたアプローチが必要な理由

日本は世界でも有数のテクノロジー先進国でありながら、その消費者行動は伝統、礼儀、そして独特のサービス文化によって形成されています。たとえば「おもてなし」の精神、細部へのこだわり、欧米よりも高い情報密度への耐性、そして強いプライバシー意識などが、デジタルプロダクトとの関わり方に大きく影響を与えています。

欧米市場で効果的だったデザインも、日本のユーザーからは「簡素すぎる」「冷たい」「信頼できない」と受け取られることがあります。ローカルに適応したユーザーリサーチを行わなければ、日本のユーザーに響かないプロダクトをリリースしてしまうリスクが高まります。

日本におけるユーザーリサーチの主な課題

日本でユーザーリサーチを行う際には、文化的・方法論的な特有の課題が存在します。最もよく知られているのが「ポライトネスバイアス(丁寧すぎるがゆえのバイアス)」です。多くの参加者が、インタビューやアンケートで問題点を率直に指摘することを避け、曖昧な表現や遠回しなフィードバックを選びがちです。この傾向を適切に考慮しないと、実際よりも高い満足度や使いやすさを示す誤った結果を導きかねません。

また、長文かつ直接的なアンケートには消極的な傾向も見られます。短く、控えめで、個人情報への配慮が明確にされているアンケート形式が好まれる傾向があります。

さらに見落とされがちなのが、日本国内における多様性です。たとえば、都心部に住む若年層のユーザーと、地方に住む高齢層のユーザーでは、使っているデバイスや情報への接し方、操作への期待が大きく異なります。

そして最後に、言語の壁も無視できません。日本は他の先進国と比べて英語の普及率が高くなく、英語に慣れたユーザーであっても、インターフェースの受け取り方が日本語ネイティブと異なる場合があります。表現やアイコンの微妙な違いが、信頼性や明快さに大きく影響を及ぼすこともあります。

日本で効果的なユーザーリサーチを行うためのベストプラクティス

日本で有効なユーザーリサーチを行うには、文化的および手法的な工夫が不可欠です。まず、日本語を話すリサーチャーがインタビューやテストを進行することで、参加者が安心して本音を話しやすい環境が生まれます。文化的な行間や微妙なニュアンスを正確に読み取り、誤解なくフィードバックを受け取ることも可能になります。

非言語コミュニケーションに注目する

日本では、直接的な否定や批判を避ける会話文化があります。そのため、熟練したリサーチャーは、言葉にされなかった情報にも注目します。たとえば、返答前の沈黙、曖昧な同意、丁寧すぎる称賛などは、実は混乱や疑念の表れである場合もあります。こうしたサインは、文化に精通していない外国人リサーチャーには見落とされがちです。対面調査を行う際は、発言だけでなく声のトーンや身体の動きも含めて観察し、フィードバックが自然と引き出せるようなストーリーテリング型の質問やシナリオ形式の設問を取り入れると効果的です。

適切な参加者の選定

日本では、年齢、地域、デバイスの利用状況によってユーザー行動が大きく異なります。たとえば高齢者はガラケーやPC中心の利用傾向がある一方、若年層はスマートフォンとLINEアプリに大きく依存しています。リクルーティングでは年齢や性別だけでなく、デジタルリテラシーや文化的価値観、居住地域による特性を意識して選定する必要があります。国外のパネルサービスに頼るのではなく、現地のリクルーティングパートナーと協力することで、より的確で信頼性のあるサンプルを確保できます。

プロトタイプの完成度は重要

日本では、「完成度の高さ」がプロダクトの信頼性に直結します。これは料理やサービスだけでなく、デザインにも当てはまります。特に初期段階のリサーチにおいても、ワイヤーフレームやラフなモックアップでは、参加者が批判を控えたり、関心を失ってしまうことがあります。

Jeff Johnsonの著書『Designing with the Mind in Mind』でも述べられているように、日本のような日本のようなハイコンテクスト文化(微細な手がかりや共通の前提に大きく依存するコミュニケーション文化)では、視覚的な完成度が「意図」や「信頼性」を判断する材料とされがちです。未完成なビジュアルは、未完成というだけでなく「いい加減」「プロフェッショナルでない」と解釈されてしまう可能性があります。

そのため、初期のテスト段階でも、機能性だけでなく、最終製品に近いビジュアルを再現した高忠実度プロトタイプを用意することで、参加者の集中を促し、より率直で実用的なフィードバックを得ることができます。

日本市場に適したリサーチ手法

日本で特に有効とされるリサーチ手法もあります。たとえば、エスノグラフィックリサーチ(民族誌的調査)は、日常生活の中でのユーザー行動や習慣を自然な形で観察することで、従来のラボテストでは見えづらい深いインサイトを得ることができます。自然な環境下での観察は、日本人がフォーマルな場面で感じる緊張感を和らげ、より本音に近い行動を引き出すのに効果的です。

また、ダイアリースタディ(記録型調査)も有効です。参加者が時間をかけて自然に体験を記録することで、短時間のセッションでは見えにくい傾向や反復行動を捉えることができます。

リモートでのユーザビリティテストも柔軟性が高く、ローカルのモデレーターや丁寧な翻訳を組み合わせることで、文化的な配慮を保ちながら調査を実施できます。

さらに、日本国内で成功している競合製品をベンチマークとして調査することも重要です。日本市場における「良いデザイン」の基準を把握することで、現地のユーザーがどのような期待値を持っているかを具体的に理解できます。

事例紹介:リサーチが明らかにした気づき

Uberの日本市場におけるUXの失敗

Uberは2014年に日本法人を設立しましたが、公共交通機関の精密さや、タクシーに関する文化的な習慣を考慮したUX設計がされていなかったため、普及には至りませんでした(出典)。

教訓:
海外で成功したサービスであっても、日本のように文化的背景が大きく異なる市場では同じ戦略が通用するとは限りません。日常行動やサービス期待値まで踏み込んだUXリサーチが不可欠です。

WixのWebサイトローカライズ

Wixの日本チームは、見出しとサブ見出しの順序を逆転させる(サブタイトルを対応するタイトルの上に配置する)レイアウトのほうが、日本の読み手にとって自然に読まれる傾向があることが分かりました。また、アイコンにホバーした際に表示されるツールチップではなく、常時表示された状態の補足説明のほうが効果的であることが分かりました。これは日本人が一度にすべての情報を把握することを好む傾向があるためです。(出典)。

教訓:
見出しの順序やタイポグラフィなど、海外では標準とされているUI構成であっても、日本市場では調整が必要になるケースがあります。

Tokyo Techiesが日本市場での成功を支援します

Tokyo Techiesでは、日本市場に特化したユーザーリサーチによって、こうした深いインサイトを発掘しています。リモート・対面の両形式でインタビューを実施し、日本人参加者向けに設計されたユーザビリティテストを日本語で実施しています。ユーザーの操作の裏にある文化的な行動パターンを分析し、何が効果的で何が障壁になっているのかを明らかにします。

得られたインサイトは理論的なものではなく、実際のプロダクト改善につながる具体的な提案に落とし込みます。新規参入でも、既存製品の改善でも、文化的な精度と明確な設計戦略によって、より確実な成果を実現できます。

日本市場でローカライズに課題を感じている方、あるいはこれからリサーチを始めようと考えている方は、ぜひTokyo Techiesまでご相談ください。

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